断熱図鑑No.003
セルロースファイバー
Cellulose Fiber Insulation
新聞古紙などを細かくほぐし、難燃剤を加えてつくる繊維状の断熱材。
専用機械で壁や天井へ吹き込むため、配線や金物の周囲にも回り込みやすい。一方、性能を左右するのは材料名よりも、施工密度・使用量・沈下対策・壁内の湿気設計となる。

| 初期費用 | 断熱性能 | 燃えにくさ | 施工の安定性 |
| ★★☆☆☆ | ★★★★☆ | ★★★★☆ | ★★★★☆ |
セルロースファイバーとは?
セルロースファイバーは、新聞古紙などの紙を細かな綿状に加工した木質繊維系断熱材。
繊維同士が複雑に絡み、その間に動きにくい空気を抱えることで熱の移動を抑える。板やマットをはめ込むのではなく、専用機械でほぐした材料をホースから吹き込んで施工する。
新聞紙が原料でも、そのまま壁へ詰めるわけではない。断熱材として使えるよう、難燃性や防虫性を持たせる薬剤が加えられている。薬剤の種類や配合は製品ごとに異なるため、「自然素材」という呼び方だけで判断しない。
住宅用製品には、施工密度の下限値が異なる天井用と壁・屋根・床用がある。同じ材料でも、施工する場所によって必要な密度と沈下対策が変わる。
- 新聞古紙などを綿状に加工した吹込み断熱材
- 壁では沈下を防ぐ施工密度が重要
- 吸放湿性があっても、防湿・気密・通気の検討は必要

主な種類と違い
壁・屋根の高密度吹込み|沈下しにくい状態まで詰める

壁や屋根では、シートや面材で囲った空間へホースを差し込み、セルロースファイバーを高い密度で充填する。
壁の中は縦方向に長いため、軽く入れただけでは材料が自重で下がり、上部に空間ができるおそれがある。そこで材料を押し戻すほど密に充填し、繊維同士を支え合わせる。
重要なのは、表面がふくらんでいるかではない。施工した面積、厚さ、使用した材料の重量から、必要な密度が確保されているかを見る。
天井の吹込み|厚さに沈下分を加えて施工する

水平な天井では、天井裏へ材料を積もらせるように吹き込む。壁のように空間を高密度で満たす工法とは異なり、比較的低い密度で必要な厚さを確保する。
ただし、施工直後の厚さがそのまま残るとは限らない。繊維が落ち着くことで厚さが減るため、製品の施工要領に従って沈下分を見込んだ「吹き増し」が必要となる。
天井では、見た目の厚さだけでなく、使用した材料の袋数と施工面積も記録したい。
湿式吹付け|水分を加えて壁面へ付着させる

セルロースファイバーには、少量の水分や接着成分を加え、開いた壁面へ吹き付ける湿式工法もある。
柱間へ吹き付けたあと、壁面からはみ出した部分を削り、厚さをそろえる。
施工時に水分を使うため、十分に乾燥する前に内装材でふさがないことが重要となる。採用するときは、乾燥期間、含水率の確認方法、削り取った材料の再利用方法まで確認する。
「セルロースファイバー」という素材名だけでは、乾式か湿式かまでは分からない。見積書には工法まで記載する。
メリット・デメリット
- 複雑な部分へ回り込みやすい
- 湿気を一時的に抱え、放出できる
- 隙間を見つけて埋める施工ができる
- 材料費に加えて専門施工費が必要
- 吹込み後の変更がしにくい
- 大量に濡れた部分は放置できない
選ぶときに役立つ三つの視点
密度ではなく「使った重量」まで確認する

吹込み後のセルロースファイバーは壁の中に隠れる。見た目だけでは、奥まで均一に入っているか、必要な密度を満たしているか判断しにくい。
そこで確認したいのが、施工面積、充填厚さ、使用した材料の総重量。密度は次の関係で考えられる。
施工密度=使用重量÷施工した体積
たとえば同じ100mm厚でも、使用量が少なければ必要な密度には届かない。
施工報告書には、部位ごとの面積と厚さ、使用した袋数、製品一袋の重量を残す。
壁をふくらませる圧力まで考える

壁へ高密度で吹き込むと、材料が周囲を押す力が生じる。
外側に構造用面材がなく、透湿防水シートだけで材料を受ける構成では、シートが外へふくらむことがある。そのふくらみが外壁通気層を塞げば、壁内の湿気や雨水を排出する経路が狭くなる。
セルロースファイバーを隙間なく詰められても、外側の通気経路を潰してはならない。
面材を使わない壁では、追加胴縁、胴縁間隔、通気層の厚さなど、採用工法が指定するふくらみ対策を確認する。これは一般的な断熱性能表だけでは見えない、吹込み圧を伴うセルロースファイバー特有の納まりとなる。
断熱施工後に壁を触らない工程をつくる

セルロースファイバーは、壁の空間を埋めることで性能を発揮する。施工後に電気配線や配管を追加すると、材料が押し分けられたり、シートが破れたりする。
コンセント、スイッチ、壁掛けテレビ、エアコン、手すり、収納、カーテンレールなどは、断熱施工前に位置と下地を決めておく。
後から壁へ穴を開ける場合、乾式吹込みでは開口部から材料がこぼれることもある。改修時は、開口前に材料の保持方法を決め、工事後に断熱層を補修する必要がある。
施工会社の技術だけでなく、電気・設備・大工工事の順番まで含めて完成度が決まる断熱材となる。
選択肢になる住宅・注意したい条件
- 配線や金物が多い壁へ、繊維を回り込ませて充填したい住宅
- 専門施工者が密度と使用量を記録できる住宅
- 断熱施工前に配線・配管・下地を確定できる住宅
- 「調湿するから防湿層はいらない」と計算せずに省略する計画
- 壁の施工密度や材料使用量を記録しない工事
- 断熱施工後にコンセントや設備配管を追加する予定がある
購入前の確認と注意点
密度と使用量を確認する

見積書には、製品名、施工部位、厚さ、施工密度を記載する。
セルロースファイバーは、壁の中へ入れた量を完成後に確認しにくい。施工面積と材料の使用重量が分かる報告書を残し、設計どおりの密度で充填されたか確認する。
天井は壁と施工方法が異なるため、沈下を見込んだ吹き増し率も確認したい。
防湿層の有無を先に決める

吸放湿性があっても、無条件で防湿層を省略できるわけではない。
省略する場合は、地域、断熱材の厚さ、耐力面材、内外装材、通気層を含めて内部結露計算を行う。計算した壁構成と、実際に使用する材料が一致していることも重要となる。
「セルロースファイバーだから結露しない」という説明だけで決めない。
吹込み後の変更を残さない

コンセント、配線、配管、壁下地は、断熱施工前に位置を決めておく。吹込み後に壁内を工事すると、シートが破れたり、充填した材料が移動したりする。
施工後に変更した場合は、その部分の断熱層まで補修する。施工日、使用量、施工箇所、補修箇所が分かる記録を残しておけば、将来の改修でも壁を開ける場所を判断しやすい。
ひつヤギ君セルロースファイバーなら、湿気を吸ってくれるから結露しないの?
じギィ博士一時的に湿気を抱えることはできるが、無限に吸えるわけではないぞ。防湿・気密・通気をどう組み合わせるかは別の話じゃ。壁の構成を決め、内部結露計算で確かめることが大切じゃ。
暮らしをつくる12の図鑑
HOUSE BUILDING ENCYCLOPEDIA
家づくりの知識を、ひとつずつ。
じギィ博士の研究ノート


